株式会社グレースイメージング(Grace imaging, Inc.)は慶應義塾大学医学部発のベンチャー企業として、運動中の汗に含まれる乳酸を検出し疲労度を計測するウエアラブルデバイスを開発しています。
医療分野では、心不全疾患を抱える患者の回復期に行う心臓リハビリテーションへの適用を目的に開発を進めており、自治体や大学と連携して医療機器としての実用化を目指しています。
私達は運動中の汗に含まれる乳酸を検出するウエアラブルデバイスを世界で初めて製品化し、医療分野を中心に適用領域を広げています。
肌に貼り付けるチップ、計測データの記録・転送を行うデバイス、測定情報の入力・データ表示・クラウド連携機能を備えたスマートフォンアプリ、データを統合化・表示するクラウドシステムで構成されており、従来の方法と比べて負担の少なくリアルタイムでの乳酸の検出を可能としています。
汗乳酸計測技術を活用することで、有酸素運動から無酸素運動に切り替わるタイミング(LTポイント)や検出された汗乳酸から代謝反応の変動を可視化。
疲労せずに長時間継続できる有酸素運動の限界値や運動負荷に対する汗乳酸濃度の変移を見ることで、
・自転車競技選手のフィジカルパフォーマンスやコンディションの把握
・効果的なトレーニングの決定
・レース中の低負荷時のリカバリー状態の把握
などに生かすことができます。
具体的な活用例として、
LTポイント到達時のパワーや心拍数、トレーニングによるLTポイントを向上できているか、無酸素運動移行後にどの程度パフォーマンスが継続するか
といった観点からパフォーマンス評価を行っています。
スポーツ庁が主催する「INNOVATION LEAGUE」でJCL様との協創プロジェクトの募集への応募がきっかけです。
日本の自転車文化を豊かにするというビジョンのもと、国内の競技レベルを世界レベルに引き上げるべく、自転車を楽しむ文化の醸成、普及に尽力されているJCL様の活動に共感を抱きました。
汗乳酸計測技術を活用することで選手の競技力向上と、観客にとっても分かりやすく楽しい自転車競技の実現に貢献できると考え、プロジェクト終了後も継続した取り組みを行っていくことになりました。
(1) JCL様との取り組み/実績
INNOVATION LEAGUEの採択後、JCL加盟チームに所属する選手のパフォーマンスを測定し成果を公開しました。
各選手のフィジカルパフォーマンスを汗乳酸値、心拍数、呼気ガス分析データ(VO2Max)などから統合的に測定・分析し、選手により有酸素運動から無酸素運動に切り替わるタイミングが違うこと、トレーニングメニューやインターバル時間の見直しにより、パフォーマンスが変わることなどを示し、データをファンに提示することでレースの楽しみ方が変わる可能性を実証しました。
屋外レースでは、JCL主催のクリテリウムで選手の測定を複数回行いました。
レース中の数値の変化を選手に装着したデバイスからリアルタイムにクラウドへ送信し、パフォーマンス評価のモニタリングを試みています。
(2) 他業種での取り組み/実績
最近の事例として、2023年4月にスポーツアパレルメーカーのミズノ株式会社・ミズノスポーツサービス株式会社と取引基本契約を締結、ランナー向けの汗乳酸計測サービスを開始している他、スポーツ科学・健康科学分野を中心とした研究者や企業、団体へ積極的に提供を行っています。
デバイスの改良も進めながら、自転車競技で培ったノウハウをもとに、今後は他のスポーツ競技へも展開していきたいと考えています。
私たちが掲げる「データを誰にも分かりやすく、社会の役に立つカタチにする」というミッションは、JCLが自転車の世界で目指そうとしている在り方に通じるものがあります。
日本においては自転車は身近な移動手段として広まっていても、多くの人がスポーツや趣味として嗜むためには様々な課題を抱えています。
疲労を可視化できる私たちのセンシング技術が、健康な人はもちろん、病気やケガからの回復を目指している人たちが豊かな人生を送るための一助として活用され、自転車を通じて前に進むことの喜びを知ってもらう——そんな社会の実現を夢見ています。